その70 勝利は、人の努力でつくり出すもの

では、この『孫子』虚実篇その五を、もう一段分かり易い言葉で訳してみます。

「戦う場所と戦いの日は、こちらが決め、敵に知らせてはならない。そうすれば戦いの主導権を握って、遠く離れた場所で戦うことも出来るようになる。

しかし、戦う場所と戦いの日をこちらが知らない状態では、左翼の軍は右翼の軍を救えず、右翼の軍は左翼の軍を救えず、前衛の軍は後衛の軍を救えず、後衛の軍は前衛の軍を救えない。つまり、味方同士で助け合うことが不可能となるのである。

そうして、同じ戦場に配置されている自軍同士ですら助け合えないのだから、味方が離ればなれであれば尚のこと協力し合うことが出来ず、個々に点在し分離したままで終わってしまうだろう。

呉王よ、私の考えでは、敵国越の兵力がどれほど多くても、それだけでは勝敗は決まらない。勝利はたまたま得られるものではなく、人の努力でつくり出すものだ。いくら敵兵が多くても、主導権をこちらが握りさえすれば、越軍は身動きが取れず、戦えなくなってしまうに違いない。」

越はチャイナ春秋時代の国で、現在の浙江省のあたりに存在しました。孫子を軍師として迎えた呉国は、隣り合う越国とライバル関係にあったのです。

現代にあっても日時・場所などの情報は、主導権を握る上で欠いてはならない要素となります。首相(内閣総理大臣)ならば、国務大臣の任命権や行政各部への指揮監督権などを持っておりますが、いつ衆院を解散するか決められる解散権は、内閣総理大臣の専権事項として「伝家の宝刀」と呼ばれるほど強い権限になっています。

首相は、この解散権によって野党を牽制しつつ、最も勝利の可能性が高いタイミングを選んで解散総選挙に持っていけます。対する野党は、いつ選挙戦になるのか分からないまま、気を抜けない緊張感から来る神経戦に疲れ果てていきます。そのため、一般的に野党の立候補予定者のほうが“体力”の消耗が激しくなってしまいます。(続く)