その71 日常的に領空・領海への侵入行為を繰り返して来るのはなぜか?

戦いの場所と戦いの日をこちらで決められれば、戦争の主導権を握れるということでしたが、一体どのようにして場と時を定めればいいのでしょうか。

それについて孫子は、次の四つを知れと教えます。戦局における敵味方の優劣、敵の出方や動き具合、地形上の不利な場所と有利な場所、敵陣の充実したところと虚弱なところ。これらを予(あらかじ)め知っておけば、主導権を握れることになると言うのです。

現代も、隣国同士による国境線を巡る対立が世界各地で起こっています。相手側は、普段からこちらの情勢を大局的に分析しています。日常的に領空・領海への侵入行為を繰り返して来るのは、こちらの反応や変化を確かめるためです。

そして、いよいよとなれば、こちらに応戦態勢を取らせてみて、不利なところ(難所)と有利なところ(急所)を見分けます。さらに、小競り合いを起こさせて、こちらの虚と実を探って来るでしょう。孫子の教えに基づけば、相手側はそうやって主導権を握りつつ、戦う前から勝っている状態を作った上で攻めてまいります。

《孫子・虚実篇その六》
「そこで敵情を量ってみて「利害得失の計」を知り、敵軍に工作してみて「動静の理」を知り、敵の態勢を固定化させてみて「死生の地」を知り、敵軍と小競り合いを起こしてみて「有余不足の処」を知ろう。

軍隊を形に表す極致は、無形になることだ。無形であれば深く入り込んだ間者もこちらを窺うことは出来ず、知謀の軍師も謀(はかりごと)を巡らすことが出来ない。

その(無形の)形によって勝利を得ても、民衆にはそれが分からない。人々は皆、我が軍の勝利の理由を(目に見える)形では知るものの、吾らが勝利を制した理由となる(固定化されていない)形まで知ることは無い。

そういう戦いの勝ち方は二度と繰り返してはならず、相手の形に応じて無限に対応せねばならないのである。」

※原文のキーワード
敵情を量る…「策之」、利害得失の形…「得失之計」、敵軍に工作…「作之」、動静の理…「動静之理」、敵の態勢を固定化させる…「形之」、死生の地…「死生之地」、敵軍と小競り合いを起こす…「角之」、有余不足の処…「有余不足之処」、軍を形に表す極致…「形兵之極」、無形になる…「至於無形」、深く入り込んだ間者…「深間」、知謀の軍師…「智者」、こちらを窺うことは出来ず…「不能窺」、知謀の軍師…「智者」、謀(はかりごと)を巡らすことが出来ない…「不能謀」、勝利を得る…「錯(措)勝」、民衆にはそれが分からない…「衆不能知」、我が軍の勝利の理由を(目に見える)形では知る…「知我所以勝之形」、吾らが勝利を制した理由となる(固定化されていない)形まで知ることは無い…「莫知吾所以制勝之形」、そういう戦いの勝ち方は二度と繰り返してはならず…「其戦勝不復」、相手の形に応じて無限に対応…「応形於無窮」   (続く)