その74 圧倒される情勢が、未来永劫に亘って続くということは無い

勝利の真因は固定化されていない「無形」にあるとのことですが、どうしたら敵に読み取られぬ「無形」となれるのでしょうか。孫子は、それを水に例えて説明します。水の如く形に囚われず、しなやかであれと。

必ず低いところに向かって行く水は、方向性を見失うということがありません。しかも相手に合わせつつ、いつのまにか主導権を手にして敵を制します。

我々は巨大な敵を相手にしたとき、その大きさに威圧され、たちまち怯(ひる)んでしまいます。まさにいま目に見えている状況こそ真実であるとし、圧倒される情勢が未来永劫に亘って続くに違いないと信じ込むことになります。

しかし、世の中は全然固定化されていません。あらゆる物が変化し、常に動いています。ですから、どこかに必ず入り込むことの出来る隙間があるものです。その少しの隙間も見逃すことなく滲入(しんにゅう)していくところに、水の持つ強さがあるというわけです。

《孫子・虚実篇その七》
「軍隊の形(かたち)は水に象(かたど)れ。水の形は、高いところを避けて下に趨(おもむ)く。

戦闘の形は、敵の充実したところを避けて手薄なところを攻撃せよ。水は地形によって流れが定まり、(それと同様に)軍隊は敵によって勝利が定まる。

軍隊に決まった勢いは無く、水に決まった形は無い。敵によって変化し、勝利を取るものを神智(しんち)という。

(この世界のあらゆるものを木・火・土・金・水の五つに分類して説明する)五行に定まった勝者はおらず、(春夏秋冬の)四季に定まった位置は無い。日の長さに短長があり、月には満ち欠けがある。」

※原文のキーワード
軍隊の形…「兵形」、戦闘の形…「兵之形」、手薄なところ…「虚」、定まる…「制」、決まった勢い…「常勢」…決まった形「常形」、神智…「神」、定まった勝者…「常勝」、四季…「四時」、定まった位置…「常位」、満ち欠け…「死生」(続く)