その80 孫子の兵法~輸送・補給は、前線部隊を支援するための生命線

戦争というものは、鎧(よろい)を着込んで武器を手にした、兵士たちだけで行われるものではありません。軍隊には、必ず物資や武器、食糧などを運ぶ部隊がいます。それを輜重隊(しちょうたい)や兵站部(へいたんぶ)と言い、後方にあって輸送・補給などの重要な任務を司り、前線部隊を支援するための生命線を作っています。

軍隊に輜重隊が付き従うのは、補給が切れてしまうと全軍が亡びてしまいかねないからです。しかし、戦闘部隊と違って動きが遅いという難点があります。荷車や荷馬車を従い、隊員自身も重い荷を背負っているのですから、それは当然です。

将軍が戦闘において手柄を立てようとして焦り、全軍を一気に投入しようとすれば、この輜重隊がまさに重荷となります。勝つための「有利な地」の獲得争いで、敵に後れを取ってしまうでしょう。

そこで、敵よりも早く前線に到着しようとすれば、今度は動きの鈍い輜重隊と離ればなれになってしまいます。それでは補給路が断たれてしまい、戦闘を継続出来ません。軍争篇・その二では、この輜重隊を軽視しないよう戒めています。

《孫子・軍争篇その二》
「こうして、両軍の交争は有利ともなれば危険ともなる。もしも全軍を挙げて利を争えば、(大部隊となって動きが鈍くなり敵よりも)後れてしまう。そうかといって軍(としての装備)を捨てて利を争えば、(動きの遅い)物資輸送部隊は取り残されてしまう。

(移動距離も重要であり)甲(よろい)を巻き収めて(動き易くして)走り、昼夜をおかず、道程を倍にしてひたすら行軍した場合、百里の先で利を争うときは、(上軍・中軍・下軍の)三将軍が擒(とりこ)にされてしまう。強い者が先になり、疲労した者は後れ、割合として十分の一が到着するだけだからだ。

また、五十里の先で利を争うときは、(先鋒の)上将軍が躓(つまづ)いてしまう。割合として半分が到着するだけだからだ。三十里の先で利を争うときでも、三分の二が到着するだけである。

こういうことから、軍隊に物資が無ければ則ち亡び、食糧が無ければ則ち亡び、財貨がなければ則ち亡びてしまうのだ。」

※原文のキーワード
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