その81 戦場で有利な地を得たいが、大部隊の移動には問題がある

いよいよ戦場で両軍が交わるとき、お互い相手の機先を制し、少しでも有利な地を得ようとします。それを「交争」といい、交争が上手くいけば有利な地を得られますが、下手な場合は「危険」な地しか得られません。

もしも将軍が交争を焦り、戦果を上げようとして力み、勢いを起こすために全軍を一気に投入すれば、どうしても大部隊の移動となります。大部隊が動く場合、まさに物資輸送部隊が重荷となって動きを鈍らせ、その後れが全軍の後れとなってしまいます。それならば、装備を捨てて身軽になって進軍すればいいかというと、今度は「動きの遅い物資輸送部隊」が取り残されてしまい、武器や食糧の補給が追い付かなくなります。

さらに、移動距離の長さも考慮に入れておかねばなりません。兵士が甲(よろい)を巻き収め、動き易くなって走り、「昼夜をおかず、道程を倍にしてひたすら行軍した」場合は一体どうなるでしょうか。通常の倍の行程を進ませるというのですから、かなり早足で進むことになります。

それが百里(孫子の時代の一里は約400メートル)の距離であれば、上軍(前方の軍)・中軍(中央の軍)・下軍(後方の軍)それぞれの将軍(三将軍)が擒(とりこ)にされてしまいます。理由は「強い者が先になり、疲労した者は後れ、割合として十分の一が到着するだけ」となるからです。少数が到着しただけの前方の軍は勢力不足で敗れ、それに続いて中央の軍が崩れ、疲れ切った兵士ばかりの後方の軍はたちまち倒されてしまいます。

「また、五十里の先で利を争うときは、(先鋒の)上将軍が躓(つまづ)いてしま」います。「先鋒の上将軍」とは前方の将軍のことで、「躓く」は倒れることです。理由は「割合として半分が到着するだけだから」です。そして「三十里の先で利を争うときでも、三分の二が到着するだけ」となることに注意しておかなければなりません。

百里・五十里・三十里いずれの場合も、物資輸送部隊である輜重隊や兵站部の到着は、兵士よりも遅くなります。補給路は軍隊の生命線です。それが確保出来なければ、軍隊はたちまち矢尽き、食糧を欠いて戦いを継続することが出来ません。

「こういうことから、軍隊に物資が無ければ則ち亡び、食糧が無ければ則ち亡び、財貨がなければ則ち亡びてしまう」ということになるわけです。(続く)