その84 機先を制す~そのために案内役が必要

物事が始まろうとするときを機先(きせん)といい、それを敵味方のどちらが制すかで勝敗の流れが決まります。機先を制するとは、先手を取って主導権を握るということです。『孫子』軍争篇では、軍争則ち「両軍の交争」の心得として、敵の機先を制すことの重要性を説いています。

必要になるのは、やはり情報です。「諸侯の謀計を知らなければ、事前に外交交渉をすることは出来」ません。謀計とは、狙いとしている腹の内のことであり、それを読み取らねば事態は前に進まないのです。

特に、敵国の強みと弱み、とりわけ弱みについて、常に調査しておく必要があります。現体制を維持する上で、今何が問題となっているのかです。特に国内に起こる軋(きし)みとして、内部に巣くう対立勢力との不和がどこまで生じているか。天候不順による凶作、経済情勢の悪化などがあるかどうか。それによる人民の不満は、どれくらい溜まっているのか。生きる指針を失った人民を、宗教勢力がどこまで取り込んでいるか。方面軍隊と結びついた地方勢力の台頭はどの程度か。異民族の結束力と独立蜂起の可能性は、などについて知っておかねばなりません。

それらを掴んでいてこそ、同盟関係を結ぶための外交交渉に臨むことが可能となるのです。また、もしも緊張感が高まった場合でも、先手を取って主導権を握ることが出来るのです。

それから孫子は、機先を制す上で、予(あらかじ)め地理的情報を掴んでおくことの大切さを教えました。敵国の鬱蒼とした山林や、険しく隔たった地形の状況、進軍を阻んでしまう湿地帯の存在などの「形状を知らなければ行軍することは出来」ないというわけです。

さらに「土地案内を用いなければ、地の利を得ることは出来ない」とのことです。その土地に精通した案内役がいてこそ、近道や抜け道が分かるでしょうし、季節や天候による河川や沼の水量の変化などを知ることが出来ます。

この道案内役を確保しておくということくらい、新しい場所に進み出て行く上で、必要不可欠となる準備はありません。その国、その分野、その業界に精通した人物をどれくらい集めているかで、先手必勝となるか後手必敗となるかが決まることになるのです。(続く)