その86 どうして太鼓や鐘を鳴らし、わざわざ旗を掲げるのか?

歴史ドラマの戦闘シーンを見ていると、太鼓や鐘などの鳴り物がけたたましく音を出し、旗や幟が勢いよく翻っている場面に出くわします。音を激しく鳴らせば自軍の場所を敵に知らせてしまうし、旗が堂々と立っていれば自軍の位置を相手に分からせてしまいます。それなのに、どうして太鼓や鐘を鳴らし、わざわざ旗を掲げるのでしょうか。

それは、両軍の交争、つまり「軍争」に負けぬためです。敵を上回る統一力と機動力を養い、機先を制して勝利を導くところに鳴り物や旗の意味があります。

《孫子・軍争篇その四》
「古代の兵法書に『口で言ってもお互いよく聞こえないから(合図に)太鼓や鐘(かね)を使い、手で示してもお互いよく見えないから(指図に)旗や幟(のぼり)を使う』とある。

鐘や太鼓、旗や幟は、兵士たちの耳目を一つにするためのものだ。兵士たちが既に一体となれば、則ち勇者は一人勝手に進むことが出来ず、怯者(きょうしゃ)は一人勝手に退くことが出来ない。これが集団を動かす方法である。

野戦には篝火(かがりび)と太鼓を多くし、昼戦には旗を多くするが、それは兵士たちの耳目を変えるためだ。そうすれば、敵軍の士気を奪うことが出来るし、将軍の心を奪うことも出来る。」

※原文のキーワード
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