その107 敵が川を越えて攻めて来たときは、半分渡らせてから撃つのが有利

「軍隊の居る場所」つまり戦争におけるポジショニングには、細心の注意を払わねばなりません。「敵軍を観察するときの視点について」も、よく心得ておく必要があります。それらについて、詳細に示されているのが「行軍篇」です。

まず、山岳地帯を行軍するときの注意です。「山を越すときは谷に沿って進め」というのは、谷伝いに少しでも歩き易い道を取り、飲料水や馬の餌となる草(飼料)を確保するためでしょう。

「高みを見付けては高地に陣取れ。高い所では、登りながら戦ってはならない」。これは前にも触れた通り、戦闘では高い位置から低い位置に向かう側が有利になることが理由です。「これらが山に居る軍隊の注意点」となります。

次は、河川地帯を行軍するときの注意点です。「川を渡ったときは必ず水から遠ざかれ」というのは、川岸は地盤が緩くて足場が悪く、危険だから避けよという意味です。

「敵が川を越えて攻めて来たときは、それを川の中で迎え撃ってはならず、半分渡らせてから撃つのが有利である」。これも足の自由が利かない川の中を避けるべきことと、敵の半分が川を渡りきったところで攻撃すれば、相手は戻るに戻れず身動きが取れなくなって、断然味方が有利になるということを教えています。

また「戦おうとするときは、川のほとりで敵を迎えてはならない」というのは、後ろが河川では後退出来ず、逃げるに逃げられなくて敗色濃厚となってしまうからです。但し、いわゆる「背水の陣」を採る場合は別です。下がれないことを逆手(さかて)に取って退路を絶ち、兵士らに覚悟を据えさせるための決死の方法です。

それから「高みを見付けて高所に居り、(下流にいて)水流を迎えることがあってはならない」と孫子は述べます。この必ず高い方を取れという教えは、山ばかりでなく川でも共通しています。もしも川の中で戦闘になれば、やはり上流から下流に向かう方が、流れを背に受けることで勢いが付いて有利になります。それに堰を切って上流から激流を放たれたり、毒物でも流されたりしたら大変です。

なお「高み」の原文は「生」です。高い所が生地、低い所が死地となるのです。以上が「川に居る軍隊の注意点」となります。

続いて、湿地帯を行軍するときの注意点です。「沼沢地を過ぎるときは、ひたすら早く通り過ぎるべきで、留まることがあってはならない」と。これも河川地帯と同じで、足の自由が利かない沼沢地は素早く通過しなければなりません。

さらに「もしも沼沢地で交戦した場合は、水草に沿いつつ木々を背後にせよ」と教えます。湿地帯の中で何とか足場の確保が可能な場所は、水草と木々の間にあるわけです。また、水草は谷の場合と同じで、飲料水と飼料の確保を意味しているとも考えられます。「これが沼沢地に居る軍隊の注意点」となります。(続く)