最高のインテリジェンス「孫子」・その1

◇食うか食われるかの陣取り合戦に負けてはならない!◇

戦前から続いていた浜松の老舗百貨店が、平成13年(西暦2001年)多額の負債を抱えて経営破綻。全従業員が解雇され、百貨店発行の商品券は紙屑と化しました。地権者が入り組んでいる跡地は未だに更地状態で、浜松の中心市街地衰退の象徴となっています。

原因は、無理な増床による固定費増大にありました。浜松駅前に大型百貨店が進出してくるというので、規模で負けないための拡大策を採ってしまったのです。

増床して「新館」を開店したのは平成4年(1992)。同年の売上高は過去最高を記録するも、勢いはそこまででした。

その前年にバブル経済(1986~1991)が崩壊しました。増床はバルブ経済の勢いの中で進められたわけで、まさか直後に一気に景気が冷え込む事態が待っていようとは予想も付かなかったことでしょう。

会社にとって、倒産ほど惨めで辛いことはありません。日本的経営者は「会社は我が子なり」と考えていますから、経営破綻は我が子の命が絶たれるのと同じくらい悲しいことなのです。

経営している以上、成功しなければ意味がありません。企業の成功とは、「会社の天分」即ち「その会社らしさ」を生かし切ることにあります。背伸びして浮つくことなく年輪のようにじわじわ成長しながら、経営者と従業員、顧客・取引先・地域などがそれぞれ満足し、ひいては日本や世界の公益に貢献するところに成功があると思います。

その老舗百貨店は、浜松がアメリカ軍による空襲で焼け野原になる中、奇跡的に焼け残り、戦後間もなく営業を再開しています。百貨店は地上8階建てのビルで、よく目立ちました。筆者の子供の頃は、浜松の郊外からも、田園越しにその偉容を遠望することが出来たのです。百貨店ビルは、いわば浜松のシンボルであり、市民にとって中心市街地に足を運ぶということは、その百貨店に行くということと殆ど同義でした。

空襲にも倒れなかった地元百貨店が潰れるはずはない。そう信じていた市民の心は、商品券が紙屑となることで裏切られ、328億円の負債を抱えての破綻は、関係者にも多大な被害を及ぼしました。

さて、東洋思想の根本原理である陰陽論は、あらゆる物事に「盛衰の循環」があることを教えています。陰極まれば陽に転じ、陽極まれば陰に転じるというもので、活動は必ず波を描きます。破綻した百貨店の経営陣も、東洋思想に学んでいれば、もう少し違った「在り方」や「終わり方」があったのではないかと思われます。

陰陽循環を元に「流れを読む」ことは、指導者に必須のものの見方です。それを教えている大事な東洋思想が「孫子の兵法」です。そこには、流れを読み、流れに逆らわないで成功と勝利を収めるための秘訣が説かれています。

東西文明が交代期にある今、国際政治も会社経営の現場も、鎬(しのぎ)を削る戦いの場となっています。食うか食われるかの陣取り合戦が起こっているのが、世界の現実なのです。

必要なことは、その厳しい現実から逃げることなく、巻き込まれて翻弄されることもなく、戦いの現場から如何にして進化と成長のエネルギーを吸収するかです。

そのための考え方と行い方を、きちんと示している兵法書が『孫子』なのです。孫子は、人生の指標となる哲学書でもあります。人生も、天分や天性を生かして、勝利し成功しなければ意味がありません。これから皆さんと一緒に、激動の時代を生き抜くための「東洋の智恵」を体得していきましょう。(続く)