No72. 優秀な部下に要注意

勉強して刺激を受けよ

何事も根本を掴み、原理に則らないと上手く機能しない。生長にも繁栄にも、そうさせる要因があると書きました。ここで、その具体例として「経営の原理原則・十カ条」について述べたいと思います。

この十カ条は、老子の教えのみではありません。道家の内容ばかりでなく、幅広く儒家や法家を交え、綜合させて論じる事をお断りしておきます。

【経営の原理原則・第一条】
トップが勉強好きで志を立てていること

やはり勉強は必要です。書物を開き、話を聞くことで、気付きを深め、知恵を働かせることが肝腎です。

経験だけに頼ると、どうしても見方が狭くなるものです。成功体験からは自信過剰になり、失敗体験からは卑屈になったりします。折角の経験を偏らせないためにも、学問による理論付けが求められます。

勉強によって刺激を受けなければ、経営に必要な閃きが起きません。同じことを繰り返すだけの日常に身を置きますと、いつの間にか目の前の問題にのみ心を奪われ、足元しか見られなくなって意識が固定化してしまいます。

世の中の指導的立場に就いている人たちは、大局に立って全体を捉えることが求められているのですが、意外なことに小さく縮こまっている人が多いように見受けます。そうならないよう、いろいろ勉強して刺激を受けることが大切なのです。

そして、これからどこへ向かうのかという、志を立てていることが重要となります。志とは、心が指し示す方向のことです。志が立って入れば、進む方向が明らかにされているのですから、それに合わせて何を学ぶべきかが明瞭となり、無駄な勉強が少なくなるでしょう。

人事と経理は二大指揮棒

【経営の原理原則・第二条】
人事と経理という二大指揮棒を、トップがしっかり掌握していること

指導者には、手放してはならない指揮棒がある。それは賞罰の権限である。
そう教えたのは、法家思想を集大成させた韓非子です。

賞罰を示す基本が何にあるかと言うと、それは人事と経理、すなわち地位と報酬にあります。昇格なら賞、降格なら罰、昇給なら賞、減給なら罰です。
地位も名誉も命も金も要らないと言う人は西郷さんくらいであり、普通の人間はこれらを一通り欲しがるものです。

組織内における評価は、常に地位と報酬に現れているのであり、部下は人事と経理を握っている人を恐れることになります。これらを側近が握っていれば、部下たちは社長よりも側近に気を使うようになります。

余程カリスマ力が高い社長ならば別ですが、凡庸なトップが賞罰の権限を手放したら命取りになりかねません。誰をどこの地位に就けるか、報酬はどれくらいか。大枠は専務なり人事担当者、経理担当者に任せていても、決定権(=実権)はトップが握っているようにしましょう。

経理に関してですが、かつて松下幸之助は、「経理社員」を子会社や事業部に配属させました。経理社員は、入社面接から社員研修にいたるまで別個に行われました。彼らは経理担当者であると同時に、幸之助直属の情報員であり、子会社社長や事業部長であっても、辞めさせたり移動させたりすることが出来なかったそうです。

松下幸之助は、経理社員から上がってくる情報を元に指示を下しました。
経理社員は拒否権を持っており、子会社社長や事業部長が決定したことでも、幸之助の命令により、それを覆すことが出来たそうです。

任せきりにしないでチェックしよう

なぜ、そこまでやるのか。理由は、優秀な人間の中に、成果を焦って独断専行をやり、問題を起こす者がいるからです。賢そうだから成果を上げてくれるだろうと期待して採用したところ、私心が強くて口が悪い、自分勝手な振る舞いが多くて閉口した。などということがよくあるものです。早く成果を出したい、格好良くやりたい、誰よりも目立ちたい、出来る人間と思われたい、などという野心に燃えている部下は、優秀であるほど要注意です。

恐らく松下幸之助も、人事で大変苦労したのでしょう。苦い経験に基づき、冷静な人間観を持つことによって創設されたのが、優秀な部下をチェックするための「経理社員」だったのだろうと察します。筆者も松下電器の経理社員だった人に会っていますが、他の社員とは随分違う厳しい雰囲気を感じたのを記憶しております。

これも経理における注意事項ですが、会計担当者の中に、会社の金と自分の金の区別がつかなくなる者が時々います。後で返せばいいだろう、などと思う内に使い込んでいくことになるのです。

任せきりにするのではなく、トップのチェックを忘れないようにしませんと、大きな横領問題になってしまうことがあり得ます。「うちは大丈夫」と安心しないで、一度振り返っておきましょう。(続く)