No.105 陰気と陽気の落差によって生成力が起こる

陰中陽有り、陽中陰有り

また、陰陽論は造化の思想でもあります。男性と女性の違いが明確なほど結合力が高まり、電気のプラスとマイナスの差が大きいほどエネルギーが強くなるように、陰気と陽気の落差によって生成力が起こることを説きます。宇宙を成立させる造化の力、森羅万象の生成の根源を明らかにするところに、陰陽論の重要な意味があるのです。

陰陽論は固定した考え方ではないと述べましたが、陰なら陰だけ、陽なら陽だけとなるのではなく、陰の中に陽があり、陽の中に陰があることを説明しています。それを「陰中陽有り、陽中陰有り」と言います。

寒い冬の日でも、日が射している部屋であれば暖かく過ごせます。暑い夏の日であっても、明け方は寝冷えに注意が要るほど涼しくなります。前者が陰中陽有り、後者が陽中陰有りです。女性にも男性ホルモンがあり(陰中陽有り)、男性にも女性ホルモンがある(陽中陰有り)のも同じことです。

相撲部屋の例であれば、弟子たちの生活が怠惰になった場合、普段は優しいおかみさんが激しく叱るときがあります。そのとき、おかみさんは陰中の陽、一歩後ろに下がって様子を見守っている親方は陽中の陰となっているのです。

「太極図」が、それらをよく示しています。太極図は、黒と白の二つの勾玉で構成されており、黒色は陰、白色は陽で、陰と陽が循環する様子を表します。そして、黒い勾玉の中に白い点が、白い勾玉の中に黒い点が入っており、それらが陰中の陽と陽中の陰になっているのです。

幕末志士たちは、実年齢に比べて随分老成していた

中国思想は、大きく分けて「山の思想」と「谷の思想」に分かれます。山の思想は陽であり儒家、谷の思想は陰であり道家が受け持ちます。

陽の思想である儒家に学ぶと、上がろう、目立とうという立身出世への意欲が(一般的に)高まります。陰の思想である道家に学んだ場合は、退こう、隠れようという無欲さが現れる傾向にあります。

両者は相容れず、矛盾する関係にあるように思われがちですが、決してそうではありません。山と谷、陽と陰が相まって、一つの人格を形成していくのです。山が無ければ谷は無く、谷が無ければ山も無いのですから。

とりわけ年を取ると共に、谷の器が求められてまいります。私利私欲を薄くして、上手に枯れていくことが、美しく老いるための秘訣となるのです。

幕末志士たちなどは、実年齢に比べて随分老成しておりました。老雄と言ってもいい、落ち着いた人格を備えていたのです。吉田松陰、橋本左内、高杉晋作、西郷隆盛、勝海舟など皆そうです。人によって学んだ程度は異なるものの、道家の思想は、何らかの形で彼らの人物の大きさに影響を与えていたはずです。(続く)